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F09  シーキング☆ザ・プリンセス

さあ、昔話をしようか。

「じゃ、まずは俺から。時代背景とか、土地柄とか、そういう説明に時間を食いそうなことはとりあえず省くが、むかしむかしあるところに、とある王国がありました」
「そこ、大事なところじゃないの?」
「細かいことを語りだすとキリがないだろ。わからないことがあったらツッコミをいれてくれ」
「わかったわ」

というわけで、とある場所、とある時代に、とある王国があったとさ。王国っていうんだから、とうぜん王様がいるわけ。でっかい王冠かぶって、赤くてゴージャスなガウン着て、玉座にふんぞりかえって、困ったことが起きても人任せで自分は絶対にそこから動かないキャラクター。命令するのがお仕事ですよ、くるしゅうない、ひれふしやがれ。みたいな。

ある日、王様はいつものように大臣に命令した。
『隣国を攻め滅ぼせー!あの地を我が国の領土とするのじゃー!』

その王様はちやほやされて育って剣を握ったことはおろか軍事のことなんてさっぱり知らない凡俗だったが、先代が名君だったおかげで軍隊は精強だった。っていうか子育てに失敗してる時点で名君の評価も微妙だよな。次世代の教育って大事だなぁとしみじみ思うよ。
とにかく、駄目な二代目そのものである王様の命令により、隣国は呆気なく滅んでしまいました。周囲は反対しなかったのか?することはしたんだけど、専制君主に逆らえる人間がいなかったらしい。バカ王は側近の言葉すら聞き入れなくて、とうとう最大の忠臣だった大臣とその一族を王に歯向かった逆賊として処刑しちまったぐらいだ。

バカの上にアホだよな。
耳に痛い言葉こそがまことの忠言だっていうのにさ。

大臣と同じ目にあわされてはたまらないと、残った臣下たちはしぶしぶ隣国を攻め滅ぼしたが、隣国にしてみればとんだとばっちりだ。そりゃそうだ、外交だってうまくやってたし、何も悪いことなんてしてないんだから。罪もない人々がたくさん死んだ。
暴君に感化されたのか、軍隊は日を増すごとに残虐な行為を重ねるようになって、隣国の首都を攻め落とした時には、城中の人間の首を刎ねて大通りにずらりと並べるまでになっていた。老若男女とわず、王も王妃も王子も大臣も将軍も兵も侍女も厩番ですら、だぜ。想像するだけでえぐいだろ。顔色悪いけど、大丈夫か?

「えぐいシーンは割愛して喋ってよ!どうしてそんなところだけ細かく描写するの!」
「これこそ大事なところだろ!俺だって気分悪いんだからおあいこだ!」
「なおさら省けばいいじゃない!」
「うるせー!」

とにかく、だ!隣国の王家一族は皆殺しにされたが、唯一王女だけは生かされた。理由。若くて美人でかわいらしかったから。ま、セオリーだよな。両親も弟も殺されたのに一人生かされて、仇の城に連れてこられた王女はあやうくバカ王の愛人にされるところだったが、幸か不幸かバカ王はバカ王の妻らしくごうつくばりな王妃に頭が上がらなかったので、離れの塔に生涯幽閉されることになった。
バカ王には娘が一人いた。これまた反面教師なのか、父親には似ても似つかない心清らかな姫君で、いかにもお姫様!を具体化したような王女だった。………ややこしいからこいつは『姫』、隣国の王女は『王女』で統一するわ。姫は父親の所業に心を痛めていたが、この国では女は政治に参加することができなくて、見ているしかできなかった。
とはいえ家族なんだから、この姫はバカ王を叱り飛ばして改心させようと思えばできたはずだ。バカ王は娘を溺愛してたんだから、なおさらな。
姫はせめてもの謝罪をと、塔の上に幽閉されている隣国の王女に会いに行った。ぶっちゃけ、火に油を注ぐ行為だと思ったね。

『こんなことになって。ごめんなさい。お父様が。なんと謝ればいいのか』

背中がかゆくなるのなんの!お前が言うな!って感じ。父王の暴挙を諌めもしなかったくせに!どうせ謝罪するってんなら王女を自由にして隣国の再建に手を尽くすとか、それぐらいすればいいのに。実を伴わない謝罪に意味なんてない。なんともバカ王の娘らしい自己満足だ。

王女は自己満足姫の謝罪を聞いて、受け入れた。
『あなたが謝ることではありません。どうしようもないことだったのです』

王女はそんな背景を知らないから、自己満足姫にそりゃーもう優しい言葉をかけた。同じ女の身、なにもできなかったのは自分も同じだと。いや、俺的にはだいぶ立場が違うだろうと思ったけどね。自己満足姫はえらい感激して、生涯をこの塔で暮らすことになるだろう王女の助けになることを誓ったとさ。

「姫に対してえらく辛口なのね」
「だってムカつかねえ?俺、この姫の行動にすっげーイライラしたんだけど」
「ま、感じ方は人それぞれだと思うけど」

姫は王女の塔に足しげく通った。
『あなたはわたくしの心の友よ!あなたほどわたくしのことをわかってくれる人はいないわ!』

当初の罪悪感はどこへやらの心酔っぷり。変わり身の早さはさすが世間知らずで温室育ちの深窓の姫って感じだね。対する王女は懐の深さで姫をあたたかく迎え入れたが、複雑な心境だっただろうな。王女が負わされた心の傷は簡単に癒えるようなもんじゃないし、姫は家族を殺して国を滅ぼした男の娘だし、顔を見るたびに思い出しちまうわけだろ。拷問に近いと思うね。

そうして一年も経った頃、とうとう王女は塔の窓から身を投げてしまった。
高い塔のてっぺんから地面に叩きつけられた遺体は、見るも無残な状態だったそうだぜ。

姫は嘆き悲しんだ。お前のせいだろ!なに悲劇のヒロインぶってんだ!誰もそんなことは言わない。だって姫の侍女は姫を甘やかしこそすれ、絶対に怒ったり諌めたりしなかったんだよ。怒ったりしたら親馬鹿バカ王に目をつけられる。周囲の人間は姫を甘やかすしかなかったわけだ。

親友とすら思っていた王女を失って、嘆き悲しむ毎日をおくる姫。
そんな自業自得姫に天罰がくだった!

「なんでそこで嬉しそうになるのよ」
「だって俺、この姫キライなんだもん。いいだろ別に」
「ちょっとは姫の気持ちも考えたらどうなの?」
「いやというほど知ってるよ」

殺されたはずの隣国の王子が、復讐のために姫の前に現れたのだ。王女が亡くなって以来、部屋で泣くことが日課になっていた姫は、突然現れた王女に良く似た男に驚いた。姉の死を知って怒りに燃えていた王子は、姫にもっとも残酷な方法で復讐した。

「―――男ってなんでこうなのかしら!亡国の王子だろうがなんだろうがやってることは一緒でしょ!立派な犯罪よ!変態よ!スケベよ!女の敵よ!!」
「いや、そこまで言わなくても………お前、ひょっとして王子のことキライなのか?」
「好意的に見られる要素がないわっ!!あのド変態ッ!!!」
「…………」

は、話を続けてもよろしいでしょうか?

確実に殴られるだろうから具体的な描写は省くが、王子に詰られて傷つけられて、姫はここでやーっと自分がどれほど罪深い存在だったか気付いたわけだ。が、今さら自覚したところで後の祭り。王女はもういない。姫が自己嫌悪で自分の殻に閉じこもっている間に、王子は怒涛の快進撃をみせ、亡国の意志を継ぐ雄志たちと共に姫の国を滅ぼし返した。
王子は姫を王女と同じ立場にすることで、復讐を完成させた。本当に仕返しするだけなら生涯幽閉が対等なんだが、王子の怒りは深く、姫は妃として王子に仕えることになってしまった。頭は悪かったが顔と身体は良かったからな。あの姫。

………いや、すみません、ごめんなさい。
そういうことは言っちゃだめなんですね。はい。

王子に憎まれていることを嫌というほど知っている姫は、華やかな地位に恐れ慄いた。なにしろ王子は悲劇のヒーロー。隣国では人気絶大、バカ王を倒してくれた英雄として姫の国でも感謝されていたぐらいだ。実際、王子は施政者としても一流だった。そりゃーもう、すばらしい王様になったわけよ。姫にとっては針のむしろに座らされているような惨めな日々の連続だった。貴族の女どもに妬まれるわ、バカ王の娘として後ろ指を指されるわ。女の嫉妬って怖いんだな………こればっかりは俺も姫に同情したよ。
王子(っていうか王になったんだけと、ややこしいから呼び方はこのままで)はもともと優しい人だったんだろう。姫は次第に王子に惹かれていったが、そのころにはすっかり自己嫌悪で凝り固まっていて、自分の罪深さに耐えられなかった。

とうとう王女と同じように、城で一番高い塔のてっぺんから身を投げてしまったんだ。

『わたくしは、あなたさまの道のさまたげになりたくはありません。どうか、すばらしい王におなりになって』

俺が姫を嫌いな最大の理由はこれね。あれだけ悩んで自己嫌悪に沈んだくせに、自己中ぜんっぜん治ってないし!自殺って一番最悪だろ!うじうじうじうじ悩んだすえに結局また自己完結かよ!自分の苦しみから逃れることばっかりで残された奴らのことまっったく考えてなかったあたり、最悪としか言いようがないね!

「―――とまぁ、『姫』物語はこれで終わり。サイアクだと思わねえ?こんな自己完結姫が俺の前世だなんて、思わず溜息が出るぜ。親と前世は選べないってか」
「…………」
「莉真?急に頭抱えてどうしたよ」
「………いや、別に」
「別にって顔じゃないだろ。頭でも痛いのか?」
「そうね、ちょっと具合悪いかも。そろそろ夕方だし、今日は帰るわ。またね」
「おいおい、大丈夫かよ。自転車で送って行こうか?」
「平気よ、電車で帰るから。またね明日、学校でね。王子物語のわかりやすいあらすじ考えとくわ。じゃ、お邪魔しましたー」

下手な捨て台詞だけど、この際しょうがない。悠一郎が自転車を出してくる前に、とっととこの場から立ち去らなくては!

「あっ、おい、莉真!―――無理するなよ!なにかあったら電話しろよ!」
「ありがと!じゃーねっ!」

逃げるように悠一郎の家をあとにして、わたしは溜息をついた。
………今さら、言えるわけがない。

実は『王女』と『王子』は双子で、顔はおろか姿形までそっくりだったとか。国を滅ぼされたときに死んだのは王女の方で、王子はバカ王に報復するために姉の振りをしてわざと捕まったんだとか。姫に優しくしていたのは情報を引き出すためで、無邪気でかわいらしい姫にずっと目をつけていたとか。いざ報復の準備が整ったら自殺したふりでさっさと王子の姿に戻って、まんまと姫の罪悪感につけこんで美味しく頂いたとか。

むしろこの王子が最悪よ。
我が前世ながら軽蔑に値するわ。

あれよあれよという間に姫の国を頂いて、周囲の反対をねじ伏せて強引に王妃にしちゃったところなんて、有能かもしれないけどバカ王とは別の意味で迷惑よね。姫は泣き顔が一番かわいいとか言ってわざといじめてたあたり、変態としか言いようがない。さすがに姫が弱ってきてからは優しくしてたけど、遅いっちゅーの。結局、姫は自害しちゃって。姫を死なせてしまってからというもの、気が狂ったように女に手をだしまくって最期はヤケクソで作りまくった庶子の一人に刺されて世を呪いながら死んでいったなんて、姫の現世である悠一郎には口が裂けても言えないわ。

おまけに、両想いだったなんて………よくもまぁこんな極悪非道男に惚れたもんだ。
私だったら初対面でぶん殴ってるわよ、こんな男。
いや、むしろ後ろから刺してるかも。

悠一郎は姫のこと最悪最悪いってるけど、むしろこんな男を前世にもった私の方が哀れだわ。かわいいじゃない、姫。無邪気で清らかで純粋で。ちょっと意志薄弱で世間知らずなぐらいがなんだっていうの!?あの王子ときたらやることなすこと腹黒いわ!変態だわ!残酷だわ!―――そんな暗黒史みたいな記憶にずっと悩まされていた私の気持ちがわかる!?今の話聞いてますますうらやましくなったじゃないのよ!

ああもう、王子め!
あんたがあんな呪いをかけたりするから、こんなややこしいことになったのよ!!

あのクソ王子、死の間際に自分の魂に呪いをかけたのよね。
また姫にめぐりあえるように。

『わたしたちの道は分かたれてしまった。しかし、一度は出会えたのだ。いずれまたきっと交わるであろう。その時こそ必ずあなたを手に入れよう』

………ですって!どんだけしつこいのあんた!変態王子の分際でロマンチックなこと言いやがって、巻き込まれたこっちの身にもなれってのよ!生まれる前から一方的に相手が決められてるって、どんな人生よ!姫にいたってはとんだとばっちりじゃないのよ!
やっと姫………悠一郎を探し出したのはいいけど、両想いにならないと呪いは解けないのよね。呪いが解けなかったらどうなるか。たぶん、来世でもまた王子の記憶付きで生まれ変わって、姫を探し回らなくちゃいけなくなるんだと思う。わたしも悠一郎を見つけるまで必死だった。探し回ってないと、ずーっとずーっと『姫を探さなくちゃ』っていう強迫観念にとらわれ続けて、ぜんぜん落ち着けなかったのよ。そんなエンドレス人生、わたしはまっぴらごめんだわ!
幸い、姫の現世だけあって、悠一郎はいい奴だ。彼が姫だって気づいてから前世のことを持ちだしてコンタクトをとって、やっと普通の友人よりちょっと上ぐらいになれたけど、まだまだ恋人同士には程遠い。でもでも、いずれ、なんとしても、ぜーったいに、両想いになってみせるんだから!


巻き込んでごめん、悠一郎。
悪いけど、前世のよしみってことで、一緒に幸せになってね!

どんな手段を使ってでも悠一郎をオトすことを、わたしはこの夕焼けに誓った。

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