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B05 暗い道を照らすのは……

 夜、空を見上げるとキラキラ光っているのは何ですか?

 そう、お月さまとお星さまですね。
 実はお星さまの中で、じっと動かないお星さまがいます。
 みなさんは、知っていますか?

 大当たり。そう、北極星です。
 
 本当は少しずつ動いているのだけれど、私たちにはほとんど動いているように見えません。
 どうして北極星は動かないんでしょうね?

 ――では、これからお話しましょうね。
 
 はじまりはじまりー。

 
 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 ほっきょくせいの“きょーくん”は、はしるのが とっても にがてです。
 いつもいつでも、かけっこは びりっけつ。
 みんな“きょーくん”をおいて、よぞらを かけまわります。

「やーい、やーい、のろまの“きょー”」
「ほら、ここまでこいよ!」

 カシオペアざの カーくんも。
 ほくとしちせいの ほーくんも。
 “きょーくん”のまわりを ぐるぐる ぐるぐる はしります。
 あさも ひるも よるだって。
 ずーっとずっと“きょーくん”のまわりを まわります。

「ボクだって、がんばれば できるもん!」

 ヨイショ ヨイショ とこえをかけ。
 ウンショ ウンショ とがんばります。

 それでも やっぱり ふたりみたいに はしれません。
 からだ ぜんぶの ちからを ふりしぼっても、
 ほかの ほしたちのように はしれません。
 どんなに がんばっても、からだが いうことを きいてくれないのです。

 “きょーくん”は とても かなしくなりました。
 おおきな しずくが

 ひとつ。

 ふたつ、みっつ、と こぼれおちました。

 とうめいな しずくが、まっくろなそらに さーっと ながれていきます。
 “きょーくん”のなみだは やがて、キラキラとひかる ながれぼしに なりました。

「ながれぼし ながれぼし
 “きょー”がないたら ながれぼし
 よぞらをはしるよ ながれぼし
 “きょー”はおそいが なみだは はやい」

 カーくんや ほーくんだけでなく、
 すぐちかくをはしる ほしの なかまたちも、いっしょになって うたいます。
 “きょーくん”は もっともっと かなしくなって。
 どんどんどんどん かなしくなって。
 なみだを またひとつ、ながすのでした。

 ◇◆◇◆◇

 そんな まいにちがつづいた、あるひのよる。
 “きょーくん”は、じっと ちじょうを みつめていました。
 ほかの ほしなかまたち は、ぐんぐん はしっていきましたが、“きょーくん”は いのこりです。
 だって、あしがおそいから。
 みんな“きょーくん”をおいて、おいかけっこで あそんでいました。
「どうしてボクは、おそいんだろう?」
 “きょーくん”はまた、なみだを ながしそうになりました。


「こまったなあ、こまったぞ」


 したのほうから ひとのこえが きこえてきました。
 まっくらな ちじょうから、いまにもなきそうな おとこのこえが きこえてきたのです。

「どうしよう、コンパスも ちずもなくしてしまった。これでは いえにかえれないぞ。
 つきが あっちにあるのだから、きたは こっちのはずだけれど……。
 こまったぞ。ああ、ほんとうに こまったなあ」

 うろうろと、なんども なんども みちを いったり きたりしています。
 どうやら おとこは、たびのとちゅうで みちに まよって しまったようでした。
 おとこがじっと そらをみつめます。
 なにか めじるしになりそうな ほしを さがそうと おもったのでしょう。
 “きょーくん”は かわいそうだ と おもいましたが、ほかのほしたちは たのしそうにわらいます。

「おーい、みんな。ニンゲンが こまっているぞ。
 よーしよーし、もっと こまらせてやろう!」

 カーくんが あいずをだすと、みんな ぜんりょくで はしりだしました。
 きゃら きゃら とわらいながら、“きょーくん”を まんなかに、まわりはじめました。
 おとこは さっきよりも こまったかおで、あたまを グシャグシャ かきはじめました。
 みんながうごきだしたので、めじるしを さがすことが できなくなって しまったのです。

「ほーら、きょーもこいよ。
 のろまなきょーも、なかまにいれてやるよ」

 ほくとしちせいの ほーくんが いいました。
 せっかく、なかまにいれてくれる といわれましたが、“きょーくん”は うれしくありませんでした。
 それよりも、ちじょうの おとこが かわいそうで しかたがなかったのです。
 いえに かることができなければ、かぞくは きっと かなしむでしょう。
 おとこも きっと、なみだを たくさんながすでしょう。
 “きょーくん”のように、ひとつ、ふたつと おおつぶのなみだが ながれるでしょう。
 だから“きょーくん”は、そのばしょを ぜったいに うごきませんでした。
 じぶんが めじるし になろうと おもったからです。

「ボクは ここにいるよ。
 だって、あのひとが かわいそうだよ。
 ボクは はやく はしれないけれど、じっとしてることは とくいだから」
 
 “きょーくん”は、ハッキリ いいました。
 なんだか、むねがスーッとして、とても あたたかい きもちになりました。
 もう、なきむし“きょーくん”では ありません。
 
「たびびとさん、たびびとさん。
 どうか ボクを めじるし にしてください。
 ボクが いるところが きた ですよ」

 “きょーくん”は たびびとのおとこに はなしかけます。
 うごかないほしが 一つだけあることに、きがついてほしくて。

 しばらくすると、たびびとは パッ と ひょうじょうを あかるくしました。
 じっとうごかない ほし があることに、きがついたのです。

 おとこは“きょーくん”を みあげながら、まえに すすみました。
 ぐんぐん、ぐんぐん。
 ぐんぐん、ぐんぐん。
 みうしなわないように、じっと ほしをみつめながら。
 
 キラキラ、キラキラ。
 キラキラ、キラキラ。
 “きょーくん”も、たびびとが みうしなわないように がんばって ひかりました。
 たびびとが いえ につくまで。
 よるがあけて あさ になるまで。
 ずーっとずっと、ひかりつづけました。

「ああ、いえだ。いえが みえてきた」

 あさも ちかくなってきた ころ。
 たびびとは じぶんのいえに つきました。
 たくさん あるいたので ヘトヘト ですが、とっても うれしそうでした。

「きたに かがやく おほしさま。
 ほんとうに ほんとうに ありがとう。
 おかげでこうして、いえに かえることが できました」

 おとこが“きょーくん”をみあげて、いいました。
 ありがとう、と いわれたことが うれしくて。
 “きょーくん”は、もっともっと キラキラ ひかりました。


 それからというもの。
 ほっきょくせいの“きょーくん”は、めったなことで なかなくなりました。
 もうだれも、「のろま」だなんて いいません。
 だって、“きょーくん”は たびびとを たすけた ヒーロー ですから。

 じつは あのあと、ほーくんも カーくんも。
 きょーくんに「ごめんね」って あやまった そうですよ。
 いまではみんな、なかよく よぞらで ひかりかがやいて いるんですって。


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 夜。
 道に迷った時は、北の空を見上げてご覧なさい。
 じっと動かず、こちらを見ている星がいるはずです。

 それが、北極星のほーくんです。


 おしまい。

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