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B03 地に降る

『どこで道を間違えたのか』
 玲明が玉座の間に駆けつけたとき、そこは血の海だった。真紅の絨毯に折り重なる屍。流れでる、禍々しいまでの赤。聞こえてくるのは、虚空に混ざる呻き声だけ。ぎこちなく視線を上げると、金で縁取られた玉座がある。凍りついていた玲明の心臓がみしりと音を立てた。赤い天鵞絨地の座をさらに赤く染めあげているもの。それは傍らで倒れている王の血だった。
 民心が離れていることは感じていた。度重なる他国との戦、度重なる天災に国は荒廃の一途を辿っている。徴兵により労働人口が減り、戦によって失われた田畑には未だ緑が戻らない。各地で大洪水が多発した昨年とは対照的に、今年は全国的な干ばつに見舞われていた。久しく降雨のない白い地面はひび割れ、井戸は枯れる。元より貧しい生活をしていた国民達は、さらに厳しい生活を強いられた。決して、国家が圧政を敷いているわけではない。だが、救済が後手に回っていたのだろう。戦死者と餓死者、被災による死者は増加の一途を辿り、もはや親族友人を亡くさずにいる国民の方が少ないほどであった。
 それでも、玲明はこの国を敬愛し、陛下を敬愛していた。陛下ならば必ず、この国を救ってくださる。そうでなくとも、玲明が仕えてきた梨凛さまが王女として国を統べるようになれば、きっと国には慈愛が満ちる。そう信じていたし、国民も根底では同じ気持ちを持っていると信じていたのだ。
 だが、全ては間違っていたのだと思わざるをえなかった。王宮になだれ込んできたのは、国民達が組織した反乱軍。大理石の床を泥に塗れた靴が踏みにじり、一点の曇りもなかった白い壁が兵士達の血で染め上げられる。誰もが跪いて仰いだ玉座は、主の血を吸い、ただの汚れた椅子に成り下がった。玲明の主たる姫さまが座る前に。
「梨凛さま」
 震える声は、玲明の喉から出たものとは思えないほど細かった。だが、自らの口から発した言葉で正気を取り戻す。護るべき姫を探し、腰の剣を抜いた。王城を走り回り、目的の人を見つけたときには、緊張からか玲明の息はひどく乱れていた。
 梨凛は数名の兵士に護られ立ち尽くしていた。白磁のような頬を流れる艶やかな黒髪が、華奢な体と共に震える。彼女は、縋るように腕の中の赤子を抱いた。異様な雰囲気を感じ取っているのか、赤子は泣くことも笑うこともせず、人形のように静かに抱かれていた。
「梨凛さま、ご無事ですか」
 張り上げた声も、梨凛の耳に届いたとは思えなかった。紅が乗っているはずの小さな唇は、血の気を失い蒼白になっている。墨を水に溶いたような薄い黒瞳は、焦点をあわせないまま呆然と虚空に向けられていた。玲明は彼女に駆け寄る。古い武具で武装した異質な男達は、王女を護るべく奮戦していた兵士と、駆けつけた玲明との間に挟まれる格好になって明らかに狼狽した。玲明は息を飲む隙すら与えず、剣を薙ぐ。全身を返り血で赤くしていた男達は、すぐにそれを自身の血で染めかえることになった。
「こちらは危険です。早く外へ」
 梨凛ははっと顔を上げる。玲明を間近で見上げ、彼女の瞳が大きくなった。

『道を間違えたのだ』
 傷つき、床に伏した男を視界に映したまま梨凛は呟いた。男は正義感に溢れる、勇敢な青年だった。陛下の傍にあっては危険を顧みず主を護り、戦場に立てば華々しい武勲を立てる。先陣をきり敵を屠る玲明は、国民にも慕われ、まさしく英雄と呼ばれるに相応しい男だった。
 しかし玲明という名は、いまや地に落ちていた。王家に仕え、己の正義の為に戦う事で英雄と讃えられた男は、王家に仕え、己の正義の為に戦う事で魔羅と恐れられている。もはや何の価値もない王家に仕え、敵と言う名の国民を虐殺する唾棄されるべき存在となった男。彼は人々の憎しみを一身に受けていた。彼はその強さゆえに梨凛を生かし続け、国民を屠り続けている。
「私に、亡命しろと」
 あのとき、梨凛は差し伸べられた全ての手を拒否した。
「この国はまだ滅んでいない。わたくしと明誠がいる限り、王家の血が絶える事はないのだから。あんな逆賊たちに玉座を汚されたまま、逃げ出すことなど出来るはずがない」
 そして胸に抱いた息子と共に、滅びかけていた国家に手を伸ばす。同じく滅びるしかなかった貴族たちは、嬉々として梨凛の手に縋った。勝算があったわけではない。王家に等しいほど永く国を統治してきた彼らは、今さら平民の下に立つ事など出来やしない。もちろん、反対する者もあった。その中には玲明もいたが、梨凛が折れないことが分かると、彼は梨凛に従った。
 彼はあのとき道を間違えたのだ。国家に対して忠義を尽くしていた男。尽くすべき王家が滅んだとき、彼は梨凛から手を離すべきだったのだ。どうせ彼は一度、梨凛の手を離しているのだから。

『何処までが正しい道だったのか』
 梨凛が十四になったとき、彼女の婚姻話が持ち上がった。陛下に梨凛以外の子は無く、彼女がいずれ女王として立つ事は確定していた。そんな梨凛を補佐するべく選ばれたのが、陛下の甥であり彼女の従兄である男であったのだ。彼の詳しい人柄は知らない。玲明の目には女王を補佐するのに相応しい男に見えたが、梨凛は頑なに彼を拒み、結婚を拒否した。
 梨凛は身分も家族も捨て、玲明と生きることを望んだ。嬉しくなかったと言えば嘘になる。玲明はこれまでの人生全てを、国と、彼女に捧げてきた。梨凛に対する感情は、愛情などという陳腐な言葉では言い表せない。だが玲明は、彼女に手渡された紙片に書かれていた場所に向かわなかった。王宮裏の牡丹園に一人で待つ彼女の前に現れたのは、父である陛下であり、彼女の夫となるべき男だった。
 梨凛の将来のために、玲明は自身の感情を犠牲にした。その時はそう信じていたが、忠誠を尽くしていた国の為に、梨凛を犠牲にしたというのが真実だった。その日以来、彼女はあまり笑わなくなった。
 梨凛は結婚し、十六で男児を生んだ。
 優しく美しく稚かった王女は母となり、王子に王冠を抱かせることに何より執着した。国民に父陛下を殺され配偶者を殺された十六の王女は、他国への亡命を拒み、命が尽きるまでこの国で戦うと公言した。無為に積み重なる屍の上に立ち、もはや掴み得ない玉座へと手を伸ばす。玲明に共に逃げて欲しいと泣いた、可憐な姫の面影は無かった。
「玲明さま」
 耳を打ったのは、乾いた男の声。滅びかけた王家と運命を共にせざるを得ないという、ただその事実においてのみ仲間である男の声だった。警戒の声に振り返ると、そこにはまだ幼い顔をした少年がいた。痩せこけた体、襤褸を纏っているかのような服装は、一目で国民軍の兵士だと分かる。裕福な暮らしを取り戻すために戦う貴族とは違い、彼らは生きるために剣を取り、家族を生かすために戦っている。
 少年が振り下ろした非力な剣は、玲明の腕の骨に当たって止まった。痛みは感じなかった。代わりに彼の胸を刺した玲明の剣が、少年の瞳から光を奪う。浴びた返り血が、いたるところから流れる自身の血と混ざり合い、ようやく痛覚を刺激した。日に日に重くなる体は、沢山の血を吸っているからだろうか。
 国民と王家が同じ方向を向いている時は良かった。だが、時間は戻せない。過去は甘い夢でしかなかった。

『正しい道など、もはや見えない』
 明誠がひどく泣く日だった。薄い線を描くように落ちる灰がかる雨が、梨凛の頬を打つ。薄絹で覆ったような空は、太陽が出ていようと雨が降っていようと変わらない。荒れた平地に蓋をしている天は、常に人々を監視し、隙あらば押しつぶそうとしていた。人は小さな存在である。空を見上げるたび、明誠の泣き声が空に消えるたび、梨凛はそう感じる。
 吉報があった。王城を支配していた男が亡くなった。数千の民をまとめあげ、三百年続いた王家を廃した男も、流行り病を前には無力だったらしい。国民は新たな支配者を失い、迷走していた。
 凶報があった。玲明が片腕を失ったらしい。腕に負った傷から菌が入り、じわじわと壊死していたのだと聞く。数え切れないほどの傷を負っている彼は、もはや痛みなど感じなかったのであろうか。彼は医師に腕を落とさせ、利き腕に剣を持ち王宮へと向かった。
 梨凛は明誠をぎゅっと胸に抱く。幼子の甘い匂いが鼻腔を満たした。何よりも大切な我が子。だが、あの男の血を引くのだと思うと、背筋が冷たくなる。梨凛や明誠を権力の一部としか見ていなかった夫。彼が死んでからさほど経っていないにも関わらず、梨凛が思い出せるのは男の歪んだ口元だけだった。
 明誠が泣き止む気配はない。いずれは至高の王冠を戴くはずだった息子。父王は後継となる明誠が生まれた途端、梨凛から興味を失った。元より夫は、梨凛の姿など見てはいなかった。そして、何より玲明も。誰もが梨凛に、王女としての振る舞いしか望まなかった。
「逃げましょう、梨凛さま」
 その言葉は遅すぎるように感じた。あのとき、梨凛の同じ言葉を振り払ったのは玲明であるのに。愛していない男に抱かれて後。愛してもいない男の子供を孕んで後。王家が滅び、国を追われて後。どうして今さら。
「私が何処までもお供しますから」
 そう言った男の顔を引っ叩いて、梨凛はここに立っている。もう戻れない。そう思ったが、そのときはまだ、梨凛の両手は血に塗れていなかった。玲明の両腕は梨凛を支えることが出来ていた。だが今は、何処に戻れば良いのかすら、分からない。

『同じ道を歩んでいるつもりだった』
 いつ倒れたのか、分からなかった。気付けば玲明は天を仰いでいた。灰色の雲に覆われた空。薄く厳かな色をした天から漏れるのは、糸のように細い雨だった。まるで魄の欠片だ、と玲命は思う。死して後、魂は天に昇り、魄は地に降る。玲明が奪った命からこぼれたそれが、ぬるい細雨となって頬を打つ。手足の感覚はほとんど無く、体は土の混じる地面に縫い付けられたかのように重い。人々の足音は遠く、こめかみをつたって落ちる雨粒だけが不快に鼓膜に響いていた。
 倒れた玲明の周囲で、剣と剣がぶつかり合う。危険だとは分かっていても、立ち上がれるとは思わなかった。とうに体力の限界は超えていた。
 左腕がひどく痛む。失くした筈の肘が痛むのは、いつまでも過去に浸っているせいだろうか。瞼の裏に焼きついている梨凛の顔は幼く、無垢な笑みを浮かべていた。だが、瞳を開けて見る彼女は、常に表情を殺している。感情を押し殺した目で、感情を押し殺した声で、ただ玲明に命じるのだ。国を取り戻すのだ、と。
 幸せだった過去を取り戻すのだ。そう言っているように聞こえるのは、単なる玲明の感傷だろうか。
 いつの間にか、体を蝕んでいた痛みと共に灰色の空が消えていた。玲明の目に映るのは、人々の顔。様々な色をした瞳は、一様な鋭い眼差しをして玲明を射抜く。これは夢なのだろうか。それとも現なのか。
「罪深き者よ。何か言いたい事はあるか」
 囁くように発せられた声。だが、沈黙の満ちていた場内には異様に重く響いた。玲明はようやく、そこで自らの処刑が行われるのだと知る。周囲を見回せば、ぎらと異様に光る瞳ばかりが目についた。集められた民衆は、殺戮者の最期を見届けにきたのだ。
 動揺はなかった。恐怖もない。ただ、これ以上の生が梨凛と共に有り得ないという喪失感だけが、空の体を満たしていった。玲明は口の中で呟く。
「梨凛さま、申し訳ありません」
 他に謝るべき名は幾らでもあったはずだ。だが、死を前にした玲明にとってはその名が全てだった。多くの人の命を手にかけた玲明の魂は、天には行けないだろう。ならば、魄とともに梨凛の生きる地に落ちよう。
 玲明はかたく目を閉じる。王冠を戴き、微笑む彼女の姿がそこにはあった。

『向かうべき道は何処にあるのか』
 逃げましょう。王宮を追われて後、何度その言葉を聞いただろう。切羽詰った兵士の顔を見ても、梨凛は返事をすることが出来なかった。胸に燻り続ける苛立ちと、疲れ、それから死に対する根本的な恐怖。相反する感情が、梨凛を押さえつける。ためらっているうちに、無理やり馬に乗せられた。国民軍の立てる砂埃を見つめながら、梨凛はある男の姿がないことに気付いた。
「玲明は」
 前線で戦っていても、こうした状況で姿を見せない事はなかった。梨凛の言葉を受けた兵士の一人が、顔を強張らせる。幾ら待っても、答えは与えられなかった。誰もが視線を逸らす。梨凛は心臓に冷たい鎖が巻きつくのを感じた。強く鎖が締め上げられる。
「死んだの」
 氷のように尖った声。何かを失うことになど、とっくに慣れていた。前線に立ち続ける玲明が命を落とす覚悟など、とっくに出来たと思っていた。しかし、男の答えを聞く覚悟は出来ていない。従者の一人が口を開くのが見え、梨凛は耳を塞ぎたい衝動に駆られる。男の声は、小さかった。
 玲明は幼い頃から常に梨凛の傍にあり、誰よりも梨凛を想ってくれる存在だった。当然、愛されていると信じていたが、所詮は彼も臣下の一人でしかなかった。玲明が仕えていたのは、王女としての梨凛だったのだ。彼は王女であることを捨てた梨凛の手を、取りはしなかった。だが、それならば何故、国を追われた梨凛の手を離さなかったのだ。命を賭してまで、梨凛の傍にいたのは何故だ。
 梨凛は馬を止めさせる。腕の中にある明誠を、強く抱きしめた。やわらかで頼りのない赤子の感触が、決意を固めさせる。何をしても、梨凛は明誠を助けるだろう。彼の父親が誰であれ、梨凛は彼のことを愛している。同様に、どんなに憎んでいたとしても、玲明に抱く気持ちは今も変わらない。周囲に、何より自分自身に向けて宣言した。
「私はもう、逃げはしない」

『途切れた道を、繋ぎたかった』
 首と両足、それから右腕に縄が括りつけられる。執行人は玲明の腕を失くした左肩にも縄を結ぼうとしたが、上手く巻くことが出来なかったらしい。舌打ちをして離れた。この国で一番重い刑は、車折による公開処刑である。四肢と首に結わった縄を馬で引き、肉体を五裂きにすることによってその罪を民衆に知らしめるのだ。
 玲明は顔を上げる。今の彼に出来る事は、罰を受けることだけだった。これまで、多くの人の命を奪った。どれほど重い刑でも、玲明の罪を贖うことは出来ないだろう。
 しかし、視線の先に見るはずのない顔を見て、息を止めた。そこにあったのは、馬に乗った梨凛の姿。漆黒の髪をきつく結い上げ、腰には細身の剣をさしている。処刑場となった広場に飛び込んできたのは、彼女を先頭にした三十騎ばかりの騎馬隊だった。集まっていた民衆は、全速力で突入してきた馬から逃げ惑う。剣や槍で武装した国民軍も、突進してくる騎馬隊に対しては無力に等しい。馬にはねられた人間や、人波に倒された人々の叫び声に、広場が騒然となった。
 周囲の兵に護られながら駆け抜けてきた梨凛の顔が、すぐ傍にあった。これまで彼女は剣を持つことはもとより、自ら戦場に立ったことなどない。
「玲明」
 二度と聞けないはずの声で、名が呼ばれる。兵士達の手によって、玲明の体を拘束していた縄が切られ、担がれるようにして馬に乗せられた。死に場所となるはずだった広場が遠ざかり、代わりに梨凛さまとの距離が近くなる。彼女は泣いていた。勇ましい格好で馬にまたがっている梨凛が、まるで幼子のように泣きじゃくる。透明な涙が、乾いた地面に吸い込まれた。
「生きていてくれて、良かった」
 泣き声の中から、搾り出すような声が聞こえた。

『この道の向かう先は』
 夢を見た。その光の先には陛下がいて、王妃がいて、幼い頃の梨凛がいた。二度と手に入らない、眩しく甘い笑顔がそこにはあった。その道を行けば、心を蝕み続けている痛みから解放される。胸のどこかで望み続けていた安息が与えられる。
 だが、玲明は赤子の泣き声に目を開けた。そこは、重い灰色の雲に蓋をされた暗い世界だった。人々の魄は雨となり、静かに地に降る。血や涙の染み込んだ地面に滲むそれは、長らく干ばつに苦しんできた国民達にとって、恵みの雨になっているのだろうか。細い光を伴う雨の軌跡をしばし見つめ、玲明はゆっくりと体を起こした。
 息を飲むような声で名が呼ばれ、梨凛がかけよってきた。粗末な衣装の裾は泥にまみれ、美しい顔には濃い疲労の影が落ちる。夢の中の彼女とは全く違う姿だったが、薄黒の瞳に湛えた光だけは幼い頃のままのように見えた。玲明は跪こうとしたが、ふらついた体が傾ぐ。梨凛の手が右肩に添えられた。玲明は体勢を立て直し、重い体を自ら支えてから、梨凛を仰ぐ。
「助けていただき、有難う御座います」
 生きていてくれて良かった。危険を顧みず玲明を助け、そう言って泣いた彼女を思い出し、玲明は胸を痛める。どんなに変わったように見えても、梨凛は梨凛だった。王女であることより、玲明と二人で小さな幸せを手にしたいと望んだ少女。優しい彼女が、本心から争いなど望むはずがない。
「私にはまだ、道は残されているの」
 凛とした、それでいて救いを求めるような声だった。正面から玲明を見据えていながら、黒の瞳は不安に揺れる。玲明は梨凛の恐れを振り払うように、力強く言った。
「国を捨て、遠い異国で暮らしましょう。梨凛さまには明誠さまがいらっしゃるのです。王宮になど戻らずとも、幸せに暮らせます」
「幸せに」
 梨凛はそう呟き、手を見下ろした。白く美しい掌に、何を見たのか。梨凛は強張った表情で、硬く唇を結ぶ。玲明は空を仰いだ。柔らかく頬に当たるのは細い雨。罪深い玲明にもまだ、道は残されているだろうか。
「私が何処までもお供しますから」
 柔らかく彼女の掌を取った。彼女に触れるのは初めてだった。梨凛の黒い瞳が大きくなる。片腕の玲明は、彼女の小さな手を包み込むことすら出来ない。だが。
「二度と、この手は離しません」

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