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E08  漆黒に咲く美しい花

空に大きな音と共に、美しい花が舞う。
それは綺麗な輝きだった。
僕の周りにいる人たちも、歓声を上げ、手を叩き、感動を表現する。
「今年も綺麗だな……」
僕は思わず呟く。
心の底から、この花火を見れて嬉しかった。

「おまたせー!」
僕の隣にジュースを持ったポニーテールの女の子が現れた。
幼馴染の麻衣だ。
「はい、これ!」
麻衣は僕にジュースを与えた。
「有難う」
僕はジュースを受け取って言った。
ジュースは僕が好きなメロンソーダ。
花火の光で、顔中の汗がはっきりと見て取れる。
「どこまで行ってきたんだ?」
「すぐそこよ」
麻衣は反対側の方角を指差す。
見ている限り、花火が見えるこの場所から距離がある。
「かなり遠いじゃないか」
「しょうがないでしょ、アンタが好きなメロンソーダそこにしか売ってなかったんだから」
麻衣はコーラを一口飲む。
彼女なりの気遣いが、僕は嬉しかった。

薄緑色の液体を僕は口に含む、ほんのりとした甘さが広がる。
僕が好きな味。
だけどもうすぐ僕はこの味を味わえなくなる。

「美味しい」
僕は思わず微笑んだ。
「なら良かった。苦労して行って来た甲斐があったわ」
麻衣はつられて笑った。
空には花火が浮かび、漆黒に鮮やかな輝きが花開く。
「たーまやー!」
麻衣は大声で叫ぶ。
「ほら、アンタも言いなさいよ」
麻衣に肩を捕まれて勧められた。
ちょっぴり気恥ずかしいが、折角来たんだし、叫ぶことにした。
花火が再び浮かんで咲いたとき……
『たーまやー!』
僕と麻衣の声が重なった。
「花火綺麗だね」
「ああ……そうだな」
麻衣はしみじみと語る。
毎年見ている花火だが、僕にとって今年は格別だ。

……僕は来年まで生きているか分からないから。
僕の体は病に冒されていて、今の医療では治せない難病で、余命は持っても半年かという診断だった。
治せないのなら、せめてその日が来るまで悔いの無いように生きようと決めたのだ。
今日の花火は僕の人生にとって最期となる。
そして麻衣と一緒に見るのも……

僕は忘れまいと漆黒に咲く花を胸に刻んだ。


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